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    パワー半導体へのめっき

    パワー半導体とは?

    パワー半導体は、産業機器や電動車両、家電製品などの電力の制御や変換を行うデバイスのことで、「パワーデバイス」と呼ばれることもあります。パワー半導体には、電圧、電流をオン/オフするスイッチとしての役割のほか、交流を直流に変換したり、直流の電圧を変換(昇圧・降圧)したりするなどの働きがあります。近年は、脱炭素への取り組みが求められる中で、エネルギー効率を改善することのできるパワー半導体の需要がより一層高まっています。

    パワー半導体は、流れる電流の大きさが他の半導体デバイスと比べて桁違いに大きいため、その構造や製造方法も通常の半導体とは大きく異なっています。また、大きな電力を扱うことから熱を発して高温となりやすく、発熱の原因であるパワー半導体そのものの電力損失を少なくするとともに、発生した熱を効率よく外に逃がす工夫が施されています。

    IGBTとは?

    パワー半導体が高電圧・大電流でも使えるようにデバイスの構造を工夫したものがIGBTです。IGBTは、Insulated Gate Bipolar Transistorの略で、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタと呼ばれています。パワー半導体には、電圧駆動で高速動作ができるMOSFET型と、高耐圧でも電力損失が少ないバイポーラ型とがありますが、IGBTはその両方の良いところを取り入れた構造となっています。

    SiCパワー半導体とは?

    従来の半導体の材料には、主にシリコンが使われていますが、シリコンと炭素の化合物であるSiC(Silicon Carbide:炭化ケイ素)を使用することによって、より高耐圧でありながら電力損失が少ないパワー半導体を実現することができます。また、機器の小型化や軽量化にも繋がることから、特にそのメリットの大きい電気自動車向けを中心にSiCパワー半導体の採用が進められています。

    パワー半導体に使われるめっき技術とは?

    電動車両に搭載されるパワー半導体は、パワーコントロールユニット(PCU)と呼ばれる電圧・電流を制御するための機器に組み込まれています。

    従来はアルミ電極にアルミワイヤを実装していましたが、現在は放熱性を高めるために、面実装のはんだ接合になってきています。これらアルミワイヤ、はんだとの接合信頼性を得るためにENIG(無電解ニッケル/金めっき)やENEPIG(無電解ニッケル/パラジウム/金めっき)が必要とされています。パワー半導体は⾼耐圧・大電流化が進んでおり、そのような高温環境下でも動作可能な接合材料として焼結材料(銀、銅)が提案されています。そして焼結材料への接合信頼性の高いめっき皮膜の開発が進められています。

    今回ご紹介したSiCパワー半導体は、電気自動車向けを中心に普及が期待されていますが、材料や製造にコストがかかることが最大の難点となっています。その点、めっきはドライプロセスに比べて設備投資の負担が小さく、また、連続処理が可能であり、量産に対応できるコストメリットを備えています。めっきは、パワー半導体の耐熱性や耐久性、放熱性の向上に寄与するだけでなく、生産性やコスト面でも貢献することができる技術です。

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