世界のものづくりを支えてきためっき産業:めっき産業のあゆみ

研磨技術の歴史

光沢剤が開発される前、めっきにおいて最も重要な工程は「研磨」でした。品質の良いめっきをするためには、めっき工程の前後に表面の研磨を行う必要がありました。
第2話では、研磨技術の中でもめっきと関わりの深いバフ研磨に絞り、その技術の概要と歴史をご紹介します。

バフ研磨 -buffと羽布-

バフ

バフ研磨とは、円盤状の布(バフ)を高速に回転させ、その外周面に研磨剤を塗布することによって素材を研磨する方法です。バフ研磨は、装飾的な光沢仕上げを行う方法として最も効率的と言える加工法であり、耐食性や摺動性などの機能を与える平滑化加工法としても行われます。

ちなみにバフの語源は、英語の「buff」であり、日本では戦前まで、日本語の翻字である「羽布」が多く使用されていましたが、飛行機の羽布(ハフ)との混同を避けるため、今日ではカタカナのバフが一般的に使われるようになりました。

油脂性研磨剤

研磨剤

バフ研磨において使用される研磨剤は、油脂類(動物性、植物性、鉱物性など)と研磨材(アルミナや酸化クロムまたは珪石など)を適度に配合し、攪拌混合した組成物です。金属用、非鉄金属用、貴金属用、合成樹脂用などがあり、各種材質の粗磨きから仕上げ研磨に対応する製品があります。

油脂性研磨剤には、棒状の固形研磨剤と、高粘度の液体研磨剤の2種類があり、液体研磨剤はスプレーガンでの噴射塗布が可能なため、主に自動研磨機用研磨剤として使用されていますが、水分を含むことから切れ味や光沢などの研磨能力は、固形研磨剤よりわずかに低下する傾向があります。

研(とぎ)の話

研磨具(バフの前身)

研磨は研摩とも表記され、「研」はとぐ、「摩」はこする、「磨」はみがくことです。明治、大正時代の日本では、研磨のことを「研(とぎ)」と呼んでいました。研を職業とする人を「研職人(とぎしょくにん)」と言い、さらに職人を2つに区分して、素材を研ぐ職人を「研屋(とぎや)」あるいは「研師(とぎし) 」と言い、仕上げ磨きをする職人を「仕上師(しあげし)」と呼んでいました。

研の方法も、研磨機が普及するまでは、関西では「ヘラ押し」と呼ばれる方法が一般的で、素材をヤスリでこすり、次にキサゲ作業をし、ヘラで最終の平滑化を行っていました。

関東式と関西式(大阪式)

大正初期の研磨方法

明治後期以降に研磨剤とともにバフが輸入され、めっき工場で使われ始めましたが、当初、関東と関西(大阪)では研磨輪の回転が反対でした。関東では、バフを手前の方に回転させ、品物をバフの回転方向に合わせるようにして研いでいましたが、関西(大阪)ではその逆に回転させ、品物をバフの上面に押しあてるようにして研いでいました。作業は関西式(大阪式)の方が楽でしたが、非効率であったため、のちに関東式に統一されました。

明治期(1868年~1912年)の研磨

明治初期には手拭きと称して、手袋でアンチモニー製品などを磨いていましたが、その後、手回し、バッテリーによる簡単な…

続きを読む

大正期(1912年~1926年)の研磨

国産品のバフは、主に軍隊の払い下げ軍服が材料であり、一番良いものがラシャの裏地でした。また、新品の反物よりも軍服…

続きを読む

昭和前期(1926年~1950年頃)の研磨

バフの認識が高まり、需要が急増しました。戦前のバフは、厚織り、キャラコ、ウコン、鉄バフなどの種類がありましたが、戦後は…

続きを読む

昭和中期(1950年頃~1970年頃)の研磨

1950年代半ばから光沢めっきが普及したことにより、バフの需要が大幅に減退しました。一方で、様々な研磨法が開発され、振動式…

続きを読む

昭和後期(1970年頃~)から現在の研磨

バフ研磨に代わる各種研磨法として、1970年代にレシプロフィニッシュ、流動研磨法などが発表され、それらの改良及び電解バレル研磨法…

続きを読む

明治期(1868年~1912年)の研磨

アンチモニー製のゴブレット

明治初期には手拭きと称して、手袋でアンチモニー製品などを磨いていましたが、その後、手回し、バッテリーによる簡単な布磨きになり、明治後期からは足踏み式のろくろのようなバフ研磨機が輸入されました。

大正期(1912年~1926年)の研磨

輸入品の研磨剤(左)とバフ(右)

国産品のバフは、主に軍隊の払い下げ軍服が材料であり、一番良いものがラシャの裏地でした。また、新品の反物よりも軍服やドブ漬け、洗濯後の反物が良いとされていました。1924年に日本で最初のバフ組合が生まれ、その後、工業組合となりました。

昭和前期(1926年~1950年頃)の研磨

回転バレル研磨機

バフの認識が高まり、需要が急増しました。戦前のバフは、厚織り、キャラコ、ウコン、鉄バフなどの種類がありましたが、戦後はバフの種類が増え、ウズ巻きバフ(とじバフ)、バラバフ、鉄バフ、サイザルバフなど10種類程度になりました。また、回転バレル研磨機が伝わりました。

昭和中期(1950年頃~1970年頃)の研磨

エアレススプレーシステム(1968年)

1950年代半ばから光沢めっきが普及したことにより、バフの需要が大幅に減退しました。一方で、様々な研磨法が開発され、振動式バレル研磨、タンブラ形バレル研磨、ジャイロ仕上げなどの方法が登場しました。1960年代からは、バフ研磨の自動化、省人化が進みました。

昭和後期(1970年頃~)から現在の研磨

高速流動研磨機(1981年)

バフ研磨に代わる各種研磨法として、1970年代にレシプロフィニッシュ、流動研磨法などが発表され、それらの改良及び電解バレル研磨法など、複合研磨の開発、その他特殊な研磨法の開発が進みました。
近年は、研磨方法や研磨工具などに大きな変化は見られませんが、現在の研磨作業においては、自動化、省人化とともに、より良好な作業環境を求める動きが加速しています。

  • めっき産業のあゆみ
  • めっき産業の歴史
  • 現代のめっき技術
  • めっき設備の歴史