ハードディスクドライブへのめっき
コンピュータのデータを保存するために使われるハードディスクドライブですが、
実はこの記憶媒体にもめっきの技術が活かされています。
今回は、ハードディスクドライブへのめっきについてご紹介します。
ハードディスクドライブとは?
近年、クラウド(ネットを介して外部のサーバーなどの記憶装置にデータを保存すること)が普及し、ハードディスクドライブ(以下、HDD)がないコンピュータも出てきています。HDDの時代は終わったかのように思われがちですが、クラウドで使用されている記憶装置自体がHDDでできています。大容量のデータを扱うには、やはりHDDはなくてはならない存在です。
また、テレビの録画機やカーナビゲーションシステムなどにもHDDが使われており、まだまだ多くの場面で活躍中です。今では、容量がTB(テラバイト※)クラスのHDDが家電量販店で販売されており、ひと昔前のサーバークラスの記憶容量が、家庭でも気軽に持てる時代となりました。※1TB=約1,000GB(ギガバイト)
パソコンやサーバーでHDDが使われる大きな理由としては、まず記憶容量自体が格段に大きくなり使い勝手が良くなったこと、そして価格の安さがあります。
HDDは、磁性体(記憶媒体)である円盤状のディスクを高速回転させ、ヘッドを動かしデータの読み書きを行っています。データの読み書きを行うためには、ヘッドをディスク(磁性体)に近づける必要があります。すなわち高速回転しているディスクにヘッドを近づけるのです。単純に考えてもディスクの表面に凹凸があるとヘッドと接触し、故障の原因になります。一方で、ヘッドを近づけないとデータの読み取りに支障をきたす可能性があります。
高速回転のディスクとヘッドの間隔の精度は、例えるなら「ジェット機が滑走路上0.数 mm上を飛行するような精度が必要」と言われています。それほど、ディスクの表面は平滑でなければならず、それを実現するのがめっきの技術なのです。
HDDとしての記憶容量は、ディスク1枚(プラッタ)あたりの記憶量×ドライブ内のディスク搭載枚数によって決まります。めっきの性能が向上すると、ディスク1枚(プラッタ)あたりの記憶量が増え、ドライブとしての記憶容量が増加します。
ハードディスクドライブには
どのようなめっきが使われるのか?
HDDは多くの部品からできていますが、その多くにニッケルめっきが使われています。しかし、同じニッケルめっきでも用途によって使用されている目的が異なります。
以下のように、ニッケルめっきの様々な機能を利用して、HDDは作られています。
- アルミディスク(下地処理) [非磁性、平滑性、強度]
- スイングアーム/磁気ヘッド [非磁性、強度]
- スピンドルモータ [非磁性、潤滑性]
- アクチュエータ [非磁性、強度]
- 筐体(本体ケース)[防磁、強度、防塵]
それでは、HDDで使われている
めっきを中心とした磁性膜形成までの
表面処理の流れをご紹介しましょう。
前処理工程(ジンケート処理)
01酸化膜を取り除く
めっきを行う前段階として、脱脂・エッチングを行いアルミ上の酸化膜を除去する。
02亜鉛置換膜をつくる
2回目の亜鉛置換処理で亜鉛膜をつけ、めっきがつきやすい状況にする。
下地処理(無電解ニッケルめっき)
03下地めっきをつくる
りん(P)の含有量の多いタイプを用いて、非磁性で平滑な皮膜をつくる。
磁性膜をつくる(スパッタリング)
04磁性膜をつくる
乾式めっきの一種であるスパッタリングを用いて、表面に磁性膜を形成する。
今回は、HDDに使われているめっき技術についてご紹介させていただきました。近年は読み書き速度が速いSSD(ソリッドステートドライブ)がHDDに代わりパソコン向けで使われるようになってきましたが、サーバー向けでは依然として容量単価が安いHDDが多用されており、今後もHDD がDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に寄与することが期待されています。そうしたHDDを支えているのがめっきの技術なのです。