テクニカルレポート79
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abcd5μm5μm5μm5μmの粒界破壊の破面の状況とを対比させることによって、水素脆性を生じた際の粒界での水素偏析量として、3.0×10-7mol/m2以上の水素が濃化していることを示した。水素脆性に関与する粒界破壊時の水素量を動的に求めた報告例としては初めての実験結果といえる。図1の装置を使って得られた結果としては、亀裂進展に伴う水素量の情報以外にも、塑性変形時の転位運動に連動した水素放出現象18)、およびそのひずみ速度依存性19)を明らかにしている。一般によく知られている水素脆化が低ひずみ速度変形で顕在化する現象を、本装置のデータから転位による水素の運搬作用の考えで説明できることを明らかにしている。各材料の水素脆化感受性の大小と変形・破断時の水素放出現象を対比させた結果として、感受性の高い材料では破断時の水素放出が顕著となることなども明らかにしている。6変形・破壊時の組織中の水素放出の可視化20~22)先に4節で説明した材料組織中での水素分析法に関して、著者らも水素マイクロプリント法を適用し、アルミニウム合金20,21)や鉄鋼材料22)を用いて、変形時の水素放出サイトの特定を行っている。その例として、自動車ボディパネルに用いられる板状の6061アルミニウム合金ノッチ材の疲労破断(周波数15Hz、応力比0)時の表面組織での水素を銀粒子の分布として捉えた結果20)を図3に示す。ノッチ底の後部(a)では応力の作用が小さく、表面には銀粒子は観察されない。一方、ノッチ底を起点として分岐した粗大なすべり帯上(b)には集中して銀粒子(図中の白色粒子)が観察されている。このすべり帯に優先的に見られる水素放出についても、先に5節で述べた塑性変形時の転位による水素運搬機構の状況を表していることは明らかである。疲労安定亀裂の伝播段階において、破面上にはストライエーションが見られる領域周辺の表面では、すべり帯同士の交差がみられており、銀粒子はその交差したすべり帯で階段状に分布しており、優先的なすべり方向に集中して水素放出が生じていることがわかる。不安定破壊を生じる最終破断部近傍の表面(d)では微細なすべり線上に転位運動と連動した水素放出が観察される。また、水素マイクロプリント法をEBSP(ElectronBackscatterDiffractionPattern)法と併用することによって、引張変形の作用で水素が特定の粒界から放出される現象も明らかにしている21)。Al-5%Mg合金に対して引張変形を与えた際の粒界の水素集積と結晶粒の方位分布とを対比させた例を図4に示す。せん断の作用が強く働くねじれ粒界に銀粒子(水素)が顕著に認められており、変形時の水素放出現象が引張応力軸と粒界の方位差の違いによって変化することなどが明らかにされている。7半導体水素センサーを用いた材料表面からの水素検出23,24)近年、水素センサー材料に用いられる半導体素子(SnO2)の感度が向上しており、その素子を利用したガスクロマトグラフィー(SGC)を用いて大気圧環境でのppbオーダーでの水素定量化が可能になっている23)。このSGCを利用してアルミニウム表面を水中で連続的に摩擦した際に生じる水素の分析とSGCを用いた昇温水素脱離分析の状況の模式図を図5に示す。水中摩擦時の水素分析〔図5(a)〕では、水中摩擦を行う反応容器の内部を一定流速(20mL/min)で高純度(5N)アルゴンを流しながら、発生した水素とアルゴンを共にSGCのカラムに誘導し、水素とアルゴンを分離して計測する。一方、昇温時の水素分析では、試験片を環状炉の中に設置した石英管の中央部に置き、図3疲労変形を与えた6061アルミニウム合金表面からの水素検出20)(a)ノッチ底,(b)疲労分岐亀裂,(c)ストライエーション,(d)最終破断部6

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