テクニカルレポート79
16/38

年目のデータを比較すると、パラキシリレン系コート剤は硬度、ヤング率共に継時変化で共に上昇している。また、ウレタン系コート剤については、地上対照試験1年目と軌道上1年目の両者において表5に示す数値では試験前後の変化はないように見えるが、ナノインデンターの押し込み深さが浅い時の計測値は、初期に比べると、1年経過後の値は安定せずにばらつきが大きい結果であった。しかし、軌道上1年目においても押し込み深さを1,000nmと深くすると初期値と同等の値となり、劣化は最表層部の一部のみであることが分かった(真空では吸湿や酸化等の影響は殆どなく、表面の劣化は地上保管時に発生していた可能性がある)。各コートの密着度についてはSAICAS法で測定しており、各条件ともほぼ同等の結果が得られた(表5に併記)。なお、パラキシリレン系コート剤は膜強度の増加の影響を受け、測定値が高くなっていると考察している。次に各コート剤の成分変化を(FT-IR法)で測定し、パラキシリレン系コート剤の地上環境継時1年目の皮膜では変質は確認されなかったが、ウレタン系コート剤は地上環境と軌道上環境の試料を比較した差スペクトル分析法においてスペクトルの一部の波長域にわずかなベースラインの上昇があり、O-H,N-H,C=OおよびC-O基の増加の可能性が示唆された。ウレタンコート剤の地上環境経時1年目の試料では、黄色変化やナノインデンター計測時のばらつきが観測されたが、軌道上環境継時1年目のサンプルでは明らかな黄色変化は観察されなかったこととFT-IR分析の深さ方向の検出能力を考慮すると数nm程度の深さ範囲の変化(劣化は最表面のみ)と推定される。以上の結果から、1年目のコート剤の物性変化は軽微であり、すずウィスカ抑制対策としては問題ないと判断している。今後2年目以降のデータから劣化傾向を把握したいと考えている。6今後へ向けた要注目点今回の評価結果から得られた、今後へ向けた要注目点を以下に記載する。①軌道上1年間で曝された軌道上の熱環境について、真空用サーモラベルⓇにおける最高到達温度の計測結果は60~65℃であり、軌道上熱解析と比較すると25℃程度低い結果であった。公的規格等でも熱膨張差で発生するすずウィスカは、高温側を85℃以上とすることが要求されているが、軌道上においてはそれよりも低い温度で5.1項のようなすずウィスカの成長が見られており、非常に興味深いので今後の評価において注視して行きたい。②パラキシリレン系コートについて、密着度の計測結果は上昇しているが、断面観察から表面の水平方向に部分的な、微小なクラックの点在が確認されている。コート剤の垂直(破断)方向のクラックではないため、直ちに問題となる事象ではないが、今後も注意して行きたい。7軌道上曝露実験の状況軌道上曝露実験は、WHISKER実験試料4台が、HTV-6により打ち上げられ、ExHAM-2号機により2017年4月13日から軌道上曝露が開始された。その後、2018年5月15日まで約1年間の曝露が実施された。1年目実験試料は、地上に回収され5節に示す評価結果が得られている。パラキシリレン系ウレタン系初期約180MPa約2MPa硬度地上1年約250MPa約2MPa軌道上1年約236MPa約1.7MPa初期約3,300MPa約15MPaヤング率地上1年約4,000MPa約19MPa軌道上1年約4,000MPa約13MPa初期約2.36kN/m約0.15kN/m密着度地上1年約3.64kN/m約0.15kN/m軌道上1年約3.40kN/m約0.19kN/m表5コート剤の物性変化の測定結果ヤング率:硬度はナノインデンターで測定密着度:SAICAS法で測定16

元のページ  ../index.html#16

このブックを見る