第11話:安心・安全な「めっき」技術

安全な製造のための環境規制

安全・安心なものづくりのために

世界には環境保護を目的としたさまざまな規制・法律、ルールがあります。特にヨーロッパを中心に環境負荷を減らす規制等が実施され、企業は対応を迫られています。代表的なものは以下のようになります。

  • RoHS指令
    電気、電子部品で鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、ポリ臭化ビフェニル(PBB)、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)が含まれている場合は基本的に販売できない
  • ELV規制
    自動車で使用される材料・部品などに鉛、水銀、カドミウム、六価クロムの使用を禁止
  • WEEE指令
    販売される製品は廃棄物削減を目的にリサイクルしやすくしなければいけない
  • REACH規則
    化学物質は基本的にすべて欧州化学品庁に登録・評価・認可・制限を受ける必要がある

これらは、ヨーロッパ内で製造や販売をした場合の規制ですが、その他の地域の製造でもヨーロッパへ製品を輸出する場合には該当することになるので、対応が必要です。

当然、めっき技術もこうした規制に対応する必要があります。

ここからは、「めっき」の環境に対する対応について見てまいりましょう。

「めっき」の安心・安全5本柱

従来の課題を解決する技術の革新

環境指令・規則に対応するために、「めっき」は技術革新でその課題を解決してきています。主なものをあげると

  • 重金属を含まない
  • 六価クロムを含まない
  • ホルマリンを含まない
  • シアンを含まない
  • PFOSを含まない

があります。

従来の「めっき」では、それぞれ重要で不可欠な物質ですが、それに変わる技術は開発され利用されつつあります。それぞれについてみてまいります。

重金属を含まない「めっき」

環境規制に適合する「めっき」液の開発

これまでの無電解めっきでは、めっき液自体に重金属(鉛など)が含まれ、できた皮膜にも重金属が微量ながら含まれていました。この場合、廃棄するときに環境規制の問題が発生してしまいます。そのため、重金属を含まない無電解めっき液の開発が望まれていました。

2000年以降、めっき液の開発が進み、無電解めっきで皮膜になる金属以外(例えば無電解ニッケルめっきの場合には、ニッケル以外)の重金属を含まない技術が確立し、多くの無電解めっきで、めっき液、皮膜共に重金属を含まなくなりました。

また、この重金属を含まないめっき液であれば、使用後のめっき液の廃棄も容易に行えるようになり、その点でも環境に優しい「めっき」になっています。

クロムめっきの環境対応

環境にやさしい「三価クロムめっき」の技術が進展

クロム(Cr)は、自然界にも多く存在し、安定した物性で錆びにくく「めっき」では、よく使われる物質です。クロムには三価クロム(Cr+3)と六価クロム(Cr+6)が存在します。クロムは有毒な物質だと思われている方もいらっしゃるかも知れませんが、三価クロムは人体に必須のミネラル成分であり、サプリメントとしても販売されています。一方、六価クロムは強力な毒性を示し、吸引や直接接触するだけで人体に極めて大きな影響を与えます。同じクロムでも物性的には全く違う性質を示します。

クロムめっきでできた皮膜(金属クロム皮膜)は、人体にも環境にも安全でRoHS規則などの規制対象外です。ただし、クロムめっきの製造工程で六価クロムを使用した場合、残留物として表面に処理液が残らないように十分な洗浄をする必要があります。

では、なぜ六価クロムが使用されているのでしょうか?

六価クロムは、安価かつ容易にクロムめっきを行うことができ、製造工場としては扱いやすい「めっき」です。逆に、三価クロムめっきは、容易に準備や液の管理ができずコスト的にも高価な方法となるので、これまでは利用されてきませんでした。加えて、三価クロムめっきの場合、作業中に液中で六価クロムが発生する場合があり、「めっき」を行うには難しい物質でした。

現在では、三価クロムでも薬品の開発やめっき加工の条件を調整することで「めっき」しやすい状況が整いつつあり、今後一層の開発が期待されています。

ホルマリン、シアン、PFOSを使わない「めっき」

「めっき」の進歩でさらに環境にやさしく

「めっき」では、重金属・クロム以外にも環境や人体に影響を及ぼす物質が使われていますが、それらに対しても使用しない技術、代替技術の開発が進められています。

  • ホルマリンは、消毒液や殺虫剤、接着剤、塗料など多用途に使用され独特な臭いでご存知の方も多いでしょう。強い毒性があり、取り扱いには注意が必要で、建材等に使用されるホルマリンは、シックハウス症候群の原因の一つにあげられています。「めっき」では無電解銅めっきの還元剤として広く利用されています。現在、新たな無電解銅めっき用の還元剤の開発が進められ、ホルマリン以外の還元剤が主流になる日も近いでしょう。
  • シアンは、別名 青素(せいそ)とも呼ばれ、化合物にはシアン化カリウム(青酸カリ)やシアン化ナトリウム(青酸ソーダ)などがあり、極めて毒性の強い物質です。金めっきでは錯化剤として利用されていますが、すでに一部の分野においては、新たな物質で行うめっき方法が主流となりつつあり、金めっき全体にも広がりつつあります。
  • PFOSは、「難分解性有機フッ素化合物界面活性剤」のことで、界面活性剤などに広く利用されていました。「難分解性」とは自然環境の中ではほとんど分解されずにそのままの状態で残ってしまう物質で、体内に入ると悪影響があり残留し続けます。しかし2000年台に問題視され、現在では製造されていません。その段階で代用・代替の薬品で対応されるようになっています。

これまで「めっき」に必要とされていた物質も、このように代替技術の研究開発が行われ、一層の環境負荷軽減が進んできています。

めっき加工の現場での環境対応

省エネで、作業環境にもやさしい現場に

「めっき」する場合、特に無電解めっきでは「温度が10度上昇すると反応速度が約2倍になる」という化学の基本が重要なポイントになります。無電解ニッケルめっきを例にすると、通常、約90度の高温で「めっき」が行われるため、以下のことが課題になります。

  • めっき液の温度を上げるためのエネルギーが必要
  • めっき液の温度を上げると蒸発しやすくなるので薬品や水などの補給が必要
  • 薬液を含む水蒸気が発生する作業環境

このように、省エネルギーや作業環境の点からも配慮が必要な状態です。

この問題を解決するために、低い温度で「めっき」が可能な薬品開発が進められ、現在では50度程度でも「めっき」が可能な加工プロセスが開発されています。また、「めっき」するための装置にも密閉型のものが増え、加工効率や作業環境の向上に貢献しています。

このように「めっき」の技術進歩は、環境問題に対応するだけでなく、作業する環境の改善にもつながっています。

今後も必要とされる、持続可能な技術へ

優れた性能・機能で、多くの場面で使われている「めっき」は、これからは品質と環境の両立が求められ、その課題に対しての対応が進んでいます。

現代の暮らしや産業になくてはならない「めっき」は、そのもの自体がサステイナブル(sustainable:持続可能)な技術でなければならないのです。

「めっき」が今後も、これまで以上に必要とされる技術であり続けるために、進化の歩みは限りなく続きます。